人で溢れかえったざわつくプラットホーム。

 音が割れたように流れる構内の案内放送。

 電車の出入りの音。

 それを知らせる駅メロディー。

 はっとしたとき、私はちょうど駅構内の階段を下りたところだった。

 朝の通勤、通学ラッシュ。

 その流れに私も身を任せプラットホームを歩いている。

 どういうことだろう。

 一体何が起こったのか。

 私は老婆になって死に掛けていたはずだった。

 自分の姿を確かめれば、制服を着ていた。

 元に戻ってる。私は高校生の麻弥だ。

 一体何が起こったのだろう。

 訳のわからないまま、私は周りの人の波に流されている。


『二番線に電車が参ります。危険ですから白線の内側までお下がり下さい』


 このシチュエーション。

 私は確か……。

 その時後ろを振りむくと、見た事があるかっこいい男性が見えた。

 リュウゴだ。

 私は一体どうすればいい。

 このまま学校に行けば、嫌われ者の一人ぼっち。

 ホームに飛び込もうとすれば、リュウゴに助けられて私は恋に落ちる。

 でも体はニイノに取られてしまう。

 ならば、何もしないまま見送る。


 何もしないまま……


 その時、リュウゴの動きが早くなり、私を横切っていく。

 私がそれを目で追っていると、リュウゴはホームの先にいた女子高生の腕を掴んでいた。

「えっ?」

 リュウゴはその女子高生の腕を持ったまま、邪魔にならない奥へと引っ込んでいった。

 どこかで見た光景だ。

 あの時の私と全く同じだ。

 私は気になり、ふたりがいる前をわざとゆっくりと歩いて、その女の子を見つめた。

 その女の子は私と目が合ったけど見なかったふりをして目を逸らす。

 その様子は自信なさげに、見ていてもどかしい。

 あれは何もしてこなかった結果だ。

 衝動で死のうとする弱い人間の姿。

 私はそれがいやで違いを見せるために背筋を伸ばす。


『ねぇ、教えて、麻弥。あなたが今思っていること』


 ニイノの声が聞こえたように思えた。

 私が思っていること、それは……


〝あんなこと二度とごめんだ〟


 私は関わりたくないと、ふたりから離れて自分の行くべきところへとさっさと歩いていった。

 少し喉の渇きを覚える。

 なんだか無性にカモミールティが飲みたくなっていた。

 今は落ち着きたい。ゆっくりと見つめ直してみたい――そんな気に駆られる。

 なぜかカモミールティを飲めばこの悪夢も優しくなりそうに思えた。

 もしこれが現実の世界であるならばだけど……。

(了)