「ごめんね、麻弥。もう返せない。だけど私はあなたの体を大切に使わせてもらうわ。一生懸命勉強し、この先いい大学に入って、いいところに就職して、あなたの両親も喜ばせてあげる。安心してね」

「いや……」

 私はリュウゴと寄り添い、ベッドに横たわる年老いた老婆を悲哀の混じった目で感謝の気持ちを抱きながら見下ろした。

「これでもう何度目かしら」

 リュウゴを見上げ私は訊いた。

「時代の移り変わりを何回も見てきたし、世界のあちこちで過ごしてきた。あまりにもそれは長くて、僕はもう覚えてない。ただ、別れはやっぱり辛かった。君の心が他の人に移っても、どの体にも愛着というのは湧くからね。そして、いい時代ばかりじゃなかったから、時には生きるのも疲れたこともあった」

「だから私が必要なの。私は新しい体がある限りあなたの傍にいられる。あなたは好きにその体を選べばいいだけ」

「外見は違っても、ニイノだからやっぱり僕は好きになる。僕はニイノしか愛せない。また新しい体で恋が始まるね」

 私たちがいちゃいちゃとしているのを、麻弥は涙目になって見ていた。

「麻弥、あなたが悪いのよ。安易に死のうなんて考えるから。こんなことになるなら、あの時、助けられずに飛び込めばよかったと思う? でもリュウゴに助けられてよかったって思ったのも事実でしょ」

 麻弥の息が弱々しくなっている。

 最後に麻弥は何を思っているのだろう。

 私はなんだかその答えが知りたくなった。

「ねぇ、教えて、麻弥。あなたが今思っていること」

 麻弥は私とリュウゴを見つめながら最後の力を振り絞って唇を振るわせた。そして麻弥は力尽き、深い眠りに落ちていった――。