運命だけを信じてる


案内されたお店はおでん屋で、店中が良い出汁の匂いで溢れていた。


「適当に頼んで」


「ありがとうございます。大根と、ちくわと、玉子と…」


「おう、たくさん食べな」


「いただきます!」


いいや。今はまだ、もう少しだけ、この想いを抱えていたい。例え痛くても、手放すことはできない。簡単にこの気持ちは消えないのだから。


味の染みただいこんが口の中でとろけていく。とても美味しい。


「初めて小牧を見た時は髪色にしか目がいかなかった。前山も驚いたろう?」


「はい。それに地毛だと思っていました。どうして教えてくれなかったのですか?最初、本当に新入社員か分からなくて、困りました」


「あはは。そうだよな。入社初日に金髪なんて、ありえないもんな」


「星崎課長は金髪の理由を聞きましたか?」


「聞いてないよ。人事部と上層部がそれで良いと判断したことに、俺が上司ぶって指摘することもないだろう」


そうだ。星崎課長はこういう人だ。

困っていても容易に手を差し伸べないところは厳しいと勘違いされがちだが、個人意思を尊重する寛容な人だ。相談すれば必ず応えてくれるという安心感もある。

一歩引いた立ち位置で見守ってくれている課長。
だからこそ私が行き詰まった時、誰よりも早く声を掛けてくれるのは決まって逢瀬先輩だった。


私は人に恵まれた職場で働けているんだ。