揺れる車内。
態勢を崩しそうになれば、小牧さんが支えてくれる。
ネクタイを緩めて欠伸をした小牧さんは完全にオフモードだ。
「そういえば今日、逢瀬先輩とランチでした?僕も呼んでくれたら良かったのに」
「小牧さんが出て行かれた後だったので…次は一緒に行きましょうね」
デートを目撃されたことは、言わなくてもいいよね。逢瀬先輩は言いふらすような人ではないし。
でもこれからも出掛ける機会が増えれば、目撃されることもあるかもしれない。ただでさえ小牧さんは目立つ。
もし会社の人に見られたら、どうしたらいい?
きっと小牧さんは合わせてくれるから、私の反応次第だ。
「難しい顔をしていますね。明日の会議のことですか?」
「あ、はい」
「大丈夫ですよ。資料も完璧で、発表者は星崎課長ですし。問題なく進みますよ」
確かに明日の会議の心配はある。
けれど社長や役員の前で星崎課長がプレゼンできる貴重な機会で、堂々とした立ち振る舞いにいつも盛大な拍手が起こる。
そして知るのだ。
やっぱり星崎課長は遠い人だと。
でも私にとっては小牧さんも、遠いよ。


