その日は特に忙しかった。
明日の会議のために、スクリーンに映し出す資料を2人で作る。
小牧さんのパソコンを覗き込みながら要望を伝えると、彼はテキパキと修正を加えていく。小牧さんとの仕事は本当にやりやすい。
「あ、待って。そこの文章…」
更に身を乗り出してパソコンの画面を指差すと、彼の髪が頰に触れた。
良い香りが鼻腔をくすぐる。
小牧さんは香水はつけていないから、シャンプーの香りだ。
「どこです?」
小牧さんが私の方に顔を向けたことにより、至近距離で目が合う。
うわ。
恥ずかしくて慌てて逸らした。
「……タイトルの下の文字です」
声が震えた気がする。
小牧さんの視線は私に向いたままだった。
オフイスに2人きり。
今日はノー残業デーで、いつもは守る気のないみなさんも珍しく帰って行った。
「前山さん、僕を見て」
シャンプーの香りよりも甘い声が、静かなオフィスにそっと投下された。


