「どうして課長たちが付き合うようになったのか、聞きましたか」
「え?」
エレベーターの扉が開くと、小牧さんは言った。
「営業課所属のあなたを自身の部下、つまり管理課に異動させるためです。星崎課長は東課長に交渉を持ちかけて打ちひしがれていました。…そこで今度は飛鳥が社長に交渉して納得させました。よって前山さんは無事に管理課に異動になりました。しかしその恩を蔑ろにできず、星崎課長は飛鳥を拒めなかったのです」
そんなこと、知らなかった。
星崎課長が口利きをしてくれたから管理課に異動になったことは気付いていたけれど、まさかそれで飛鳥さんと…。
昨晩、星崎課長は言っていたじゃないか。
ーー仕事面で彼女には色々と助けてもらったから、気持ちに応えたいと思ったんだ。
まさかその"仕事面"が、私のことだとは思わなかった。
「待って、小牧さん」
廊下を進む小牧さんの後を追う。
振り返ってはくれなかった。
「…その話、誰から聞いたのですか」
「飛鳥が白状しました」
「それで…2人の婚約破棄を促したのですね」
「はい」
そっか、そうなんだ。
星崎課長は私のために、飛鳥さんと付き合っていたのだ。
私なんかのためにそこまでしてくれていたなんて…。知らなかった。


