「……」
ぼっとしていると背後を自転車が通り過ぎた。
その音に、我に返る。
そして手を引かれ、道の端に誘導された。
星崎課長のごつごつとした指が、私の手を捕らえた。
「前山が新人の頃から、君は俺にとって特別だった」
手から熱が伝わる。
「ずっと、好きだった」
「信じられません…」
"私もーーー"
そう答えれば、私の長い片思いにも終始を打つことができる。
けれど、私はーー
答えられなかった。
そんな私を見て、苦い顔をした星崎課長は言った。
「…困らせてごめん。ゆっくり考えてくれれば良いからね」
手を解き、先に歩き始めた星崎課長は歩調を速めて
それから駅までなにも話さなかった。
どうしてなにも言えなかったのだろう。
飛鳥さんへの罪悪感だろうか。
彼女の心中を考えるとあまりに辛い。


