運命だけを信じてる


それから1時間も経たないうちに2人が戻ってきた。


みんなが視線を上げる。

いや、逢瀬先輩のキーボードをテンポよくタイピングする音だけが響いていた。



「騒がしくして申し訳なかった」


星崎課長が気まずそうに謝る。
小牧さんの顔は、見れない。


「それと、みんなもう察しているだろうけれど、小牧は東社長のご子息だ」



「今まで隠していて申し訳ありません。父の名前を借りて働きたくなかったので、みなさんに単なる新人としてご指導頂きたかったので、控えさせて頂いておりました。身勝手かもしれませんがこれからも父のことは関係なく、厳しくご指導頂きたいです」


言い終わると同時に深く頭を下げた小牧さんの気持ちは分かる。

それでも結果的に隠されていたという事実が気持ちを重くさせた。管理課のみんながそうであったようで、返事をする者はいなかった。

どんな言葉を返したら良いか…。


顔を上げて彼を見る。
その表情は強張っていた。


「俺はこれまで通り鍛えるぞ。使えない新人は管理課にはいらないからな」


「逢瀬先輩…」


「分かったから、早く未来プロジェクトのレポート!報告書書いてくれ。俺がチェック担当だからな、残業はごめんだぞ」


なんとも言えない感情に気後れする中、やはり逢瀬先輩だけは彼らしい言葉で部屋の空気を軽くしてくれた。