運命だけを信じてる


両親が決めた婚約者の話を聞いた時から、きっと立派なお家だと想像していた。

まさかアズマネクスト商事の社長のご子息だとは想像以上だ。


「だからあいつは止めとけって俺は言ったよ」


覚えてるよ…。

いつかのラーメン屋。
小牧さんと付き合うことになったと打ち明けた時、『小牧 真矢は止めておけ』と困った顔をして逢瀬先輩は言った。



「教えて欲しかったです」


「俺の口から聞いても仕方ないだろ」


もっともだ。
逢瀬先輩に八つ当たりはよろしくない。


「別れるのか」


私だけに聞こえる小さな声。


「……分からないです、今は」


「ゆっくり考えろ」


肩をポンと叩かれる。
自席に戻った逢瀬先輩はそっと栄養ドリンクを渡してくれた。


「ありがとうございます。とりあえずレポート終わらせます」


パソコンのモニターに向き直る。
背後から聞こえる杉山さんたちの盛り上がるお喋りにひとり溜息をついた。