ジリジリと詰め寄ってくる小牧さんから逃げるように後退し、遂にベッドまで追い詰められた。
"熱い夜"
こんな場面で逢瀬先輩の言葉が蘇ってしまった。
「僕に触れられることが嫌ですか?」
おかしな妄想に囚われていると、小牧さんが切なげに、困ったように笑った。
私はあなたにそんな風に笑って欲しいわけじゃないのに。
「違います。恥ずかしいからです。ごめんなさい」
「そうですね…僕こそごめんなさい。それっぽい理由をつけてあなたに触れたかっただけです」
「……」
小牧さんがドライヤーを差し出した。
受け取る時、ほんの一瞬、手が触れた。
動揺を隠すために言葉を探す。
「…夏帆さんは?お待たせしているのでは…」
「待たせるもなにも約束してませんよ。これからコンビニに行って部屋で食べます。前山さんも欲しいものがあったら言ってください」
与えてくれる言葉はいつも、優しいものだ。
私を気遣い、労って、こうして部屋にまで来てくれた。
「…やっぱり、外で食べませんか?」
正直、ホッとした。
夏帆さんと一緒でなくて良かった…。


