逢瀬先輩からの一言は頭の隅に追いやり、ロビーに向かう。
全くもう余計なことを言ってくれるんだから。
ビジネスホテルのロビーは狭く、すぐに小牧さんの姿は見つかった。しかし、駆け寄ることを躊躇ってしまう。
隣りに夏帆さんの姿が見えたから。
楽しそうに談笑をする2人。
そしてなにより意外だったことはーー
「ははっ。なにそれ!本当に?あいつがそんなことを?はははは、涙出そう!」
小牧さんが大きな口を開けて笑っていた。
私に向ける彼の笑みは全て優しくて、穏やかなものだったけれど。
白い歯を見せて、目を細めて、顔をくしゃくしゃにして、お腹を抱えて、ーー笑う、彼を初めて見た。
今まで見てきた紳士の微笑みでなく、無邪気な子供のような笑顔に目を奪われる。
あなたはそんな風に笑うんだ。
「あ、前山さん」
そして何よりショックだったことは、私を視界に入れた瞬間、彼は笑みを消し去った。
「逢瀬先輩からオススメのお店をいくつか教えて貰ってますが、中でも一番…」
「あの!良かったら、お二人で行かれたらどうでしょう。私は大丈夫ですので」
気付いたら、そう言っていた。


