村井さんはそう簡単に私を許さない。
彼女の性格は身をもって知っている。
「村井さん、すみません。実は、その仕事、僕が引き受けたんです。無理矢理、前山さんにお願いして、僕がやるって言い出したのですけど…すみません、忘れてました」
管理課のみんなが心配そうに私を見守る中で、小牧さんが嘘のフォローを入れてくれた。
「なに言って…」
「小牧くんが?それなら、仕方ないわ」
私の言葉に、村井さんの言葉が重なる。
あっさりとした反応だった。
「後、1時間で仕上げられる?」
「はい。すぐに。申し訳ありません」
「いいのいいの。私もすぐに忘れるから」
猫撫で声になった村井さんは極上の笑顔で手をひらひらとさせた。
私を置いてきぼりにして進む会話。突然態度を変えた村井さんに真実を伝えようと口を開く。
「あの、」
「ありがとうございます。村井さんの心が広くて助かりました」
しかし今度は小牧さんの言葉に上書きされて、掻き消されてしまった。
営業部に居た頃の昔話をしたため、小牧さんは村井さんから私を助けてくれたのだろう。
正しいことだけが、正しいわけじゃない。
星崎課長と東課長の一件からそう学んだ。
嘘も方便。
小牧さんの気遣いに甘えることが、正しい選択なのかな。


