運命だけを信じてる


明日からゴールデンウイークという最もテンションの上がる時に、水原さんに肩を叩かれた。


水原 茜(みずはら あかね)さん。
私より3つ年上の32歳。

明るい茶色のショートヘア。髪をかけた耳にはピアスが輝き、いつもパンツスタイルなボーイッシュな方だ。お酒が弱く、そのギャップが可愛らしい私にとってのお姉様的存在である。


「有希ちゃん、まずいことになったわ…」


そして唯一、私を下の名前で呼ぶ彼女は珍しく焦っていた。


「システムエラーでデータが全部消えてしまって、今、情報部の方にお願いしてるんだけどね…」


「データですか?水原さんのパソコンの?」


水原さんの席に見覚えのない中年の男性が座っていて、パソコンと対峙している。


「そうなの。突然、画面が真っ暗になって」


「バックアップは?」


水原さんたちはゴールデンウイーク明けから始まる未来プロジェクト用の資料を作成していたはずだ。プロジェクトの過去データをまとめ、直近の我が社の入社状況、離職率などのプレゼンの資料だっけ。


「バックアップとっているはずなんだけど、上手くいかないみたいで…」


今の時代、パソコンが壊れることは想定内で社内のネットワークにバックアップを残しているはずなのだけれど、それが上手く復元できないらしい。ゴールデンウィーク前にまずいことになったと、オフィスの空気が重くなった。