駅から家までは10分弱で、生温い夜風が夏の訪れを告げている。
そろそろ半袖を出さないとな…
髪を乱す突風が吹く。
ここ数日の天候は荒れやすく、折り畳み傘は欠かせない。
あの日。2回目に待ち伏せされた日、小牧さんは乱れた私の髪を直してくれた。酷いことを言った後なのに、優しい手つきで直してくれた。
「優しすぎるよ…」
ふと、あるアイディアが浮かんだ。
すぐにはできないと思うけど、料理を勉強しよう。ひとり暮らしをきっかけに自然と料理を覚えた人もいるだろうけれど、私のレベルでは受験のように着実に取り組まないといけない。基礎から、じっくりと。幸いにも長いゴールデンウィークも待っているから、練習する時間はたっぷりある。
明日は母の好きなケーキ屋に寄って、ご機嫌取りから始めようかな。
月も出ていない夜なのに、鼻歌でも歌いたい気分だった。


