運命だけを信じてる


今日に限って他の階で誰も乗って来ずに、2人きりの状態が続く。1階までのほんの僅かな時間が息苦しい。


「そういえば小牧真矢はどうです?」


「え?」


彼女の口から出る"コマキシンヤ"は別人みたいに聞こえた。


「あなたがOJTやってるんでしょ」


あ、東さんは私のことを認識していたようだ。名前まで知っているかは怪しいけど。


「あ、はい」


「管理課のことなら彼から聞いてます」


"彼"、名前のない人物にさらに息苦しさが募る。
そうだよね。恋人になら話すよね…。

星崎課長は私のことを彼女にどう伝えているのかな。知りたいという気持ちと、聞きたくない気持ちが入り混じる。


「金髪の新人なんて聞いたことないから面白そう」


「小牧さんは真面目で、仕事も早くて、なんでも出来る方です」


「へぇ」


彼女が思っている人物像と違ったことが不満なのだろう。それでも小牧さんと働いたことのない人に彼を馬鹿にされることはたまらない。


「じゃぁ将来的にはうちの彼を追い越すのかしら」


「それは……」


私の彼の方が上よ。
そんな勝ち誇った笑みを浮かべていた。