「片倉くん、退院おめでとう。これからは無茶して怪我をしないようにね」


少しずつ春の兆しが見え、暖かくなってきた。

学校の出席日数をなんとかしてもらい、無事受験を済ませた俺は、ようやくこの日を迎える。

一時期、命の危機に瀕したも関わらす、俺は徐々に回復し、なんと完治したのだ。

多くの人が、それを奇跡だと言った。

担当してもらった女医の藤咲先生にお礼を伝え、母と二人、自動ドアを抜ける。

先生は最後まで見送ってくれるようだった。

「聖夜、あなた十二月頃、夜中に散歩に行ったこと覚えてる?」

母が冗談を言うように、でも幸せそうにそう聞いてきた。

「覚えてるよ。だって俺、死んでやろうと思ってたから」

すると母は驚きの声をあげて、俺を睨んできた。
俺は「未遂だよ未遂」と母をなだめる。

「あの時は、一点しか見れなかったんだ。どうしたら楽になれるのか、そればかり考えてた。だけど、もう大丈夫。二度と自分から死のうなんて思わない。だって俺は、誰かに生かされているから」

母はフッと笑って「なにその名言。誰がそんなこと言ってたの?」と言った。