「でもまあ、いつかは?努力で抜かしてやるし?見てろよライバルって感じ!向こうに才能があって私にないのなら、百倍泳いで絶対勝ってやるもんね!」

意気込んで、バンッとガラスを叩く。

部長さんは一心に、蝶のごとく泳ぐエリを見つめていた。

俺も、部長さんやエリのようになりたい。

壁があっても前に進んでいくところ。
才能に勝らなくても諦めないところ。
早死するとわかっていても、最期の瞬間まで未来を夢見るところ。

みんな前を向いていた。

かっこよかった。

エリは、何周か泳いですぐにプールサイドへあがった。

もう終わりなのか、帽子を引き剥がし、まとまった髪がするりと落ちる。

「顔赤いんじゃない?」

「は!?」

「ごめ〜ん、気のせいだった」

前言撤回。こんな先輩、全然かっこよくない。意地悪だ。

俺は自分より背の低い部長さんを見下して睨む。

「そんな怖い顔しないでよー。好きなんでしょ?でも、エリに変なことしたら許さないからね!私の大事なライバルなんだから!」

俺は、え?と声を出したはずなのに、出なかったらしい。

好きって…そんなこと。

だってまだ、出会って約一週間くらいじゃないか。

いやいや、ない。

それに、俺はもう、大切なものなんて…。