「ほら早くしなさい!由奈ちゃん待たせないの!」
母さんが牛乳をコップに注ぐ。
「分かったよ」俺は注がれた牛乳を一気に飲み干し
パンを咥えて玄関に向かった。
季節は夏。高2の夏は将来を考える不安と
あと1年楽しもうという気持ち半分。
ドアを開けるとギラギラの太陽が肌を焼く。
「おはよう!千隼!」あぁ夏だ。
女子が何を見て夏と思うのかは知らないが
男は大抵女子の半袖のワイシャツ、ミニスカートを
見て夏を感じると俺は思う。
「おはよう、まだ7月入ったばっかりなのに
暑すぎる…」2人で歩きながら他愛もない会話をする。
「そう?私的にはまだ長袖で大丈夫な気温だよ」
「由奈は寒がりだからだよ、普通人は暑すぎて死んでる」

学校校門
「おはよう由奈ちゃん!」「由奈相変わらず可愛いね」
次から次へと由奈に挨拶をしているのは大抵男だ。
1人の男が由奈の肩を抱く。
「由奈ちゃん!久しぶりに遊んでよ〜!」
1年の新田だったけっか。
由奈はチラリと俺の方を見る。それは俺にどうにかして欲しい…いやどうして欲しいの合図だ。
「由奈は今日勉強教えてやる日だろ、また今度にしてくる?」俺の行動は決まってる。
新田を由奈から引き離し、由奈の手を引き歩く。
「今日も家行っていいんだ!」満面の笑みで手を引く俺を見る由奈。
世界で一番、俺が好きな人。雨野由奈
世界で一番、俺が怖い人。雨野由奈

少し俺、豊島千隼(としまちはや)と
雨野由奈(あまのゆな)について話そう。

俺と由奈が出会ったのは小学1年の時。
俺が由奈の隣の隣に引っ越してきた。
もちろん近所の訳だから小学校は同じで
近所だったから登下校も同じでよく遊んだりもした。
その時はまだ俺は由奈ちゃんは可愛いと思うくらいで
好きだったんだろうが、そこまででもなかったと思う。
小学4年の時、由奈は運動もできてクラスから人気がある男に告白された。俺はその時初めて嫉妬を覚えた。由奈の近くにいる男が俺ではなく、その男になってしまうのではないかと…
きっと由奈はその男と付き合うのだと思った。
たかが小学生の付き合いだが当時の俺にとっては
かなりの衝撃的なものだったのだ。
由奈はすぐ返事をしなかった。
ある日いつも通り由奈と一緒に帰った俺は聞いた
「由奈は光と付き合うの?」
この時から始まったんだ。
「千隼は由奈が光君と付き合ってほしい?」
好きな人にそう聞かれて、はい。付き合って欲しいと
誰も答える訳がない。
そう。由奈は俺に聞くのだ。問おうのだ。
自分が他の男とどうなって欲しいのか、どうやって欲しいのか。そこに由奈の意思なんてない。

俺は由奈が好きだ。好きだから他の男といて欲しくない、触れて欲しくない。由奈が俺だけを見てほしい。