虹のふもとの夢の先



5時間目の体育の終わり。


誰もいない体育館で、


私は体力テストのシートを並び替えていた。


早く着替えないと、6時間目に間に合わない。


時計に気をとられていた時、


私はうっかり手を滑らせ、


並べ替えたシートが床に散らばってしまった。


「あー………せっかくきれいにやったのに」


床に落ちたシートを渋々拾っていると、


誰かの色白い手が視界に映る。


半袖、ほっそりした体に、爽やかな短髪。


手の主は雨宮君だった。


「あれ?雨宮君?」


雨宮君はシートを手早く拾い、


私に渡してくれた。


「ほらよ。オレも手伝うよ」


「あ、ありがとう」


さっきまで、雨宮君がいたことに、


全然気付かなかった。


少し戸惑いながらも、私は


シートを並び替える。


しばらくの沈黙が続いた。


何か話さなければ、と思ったが、


先に口を開いたのは雨宮君だった。


「なあ、天野。


お前いつも長袖のシャツ着てるし、


体育の時も長袖来てるけど、


暑くないの?」


シートに書かれた出席番号を
一つ一つ確かめながら、雨宮君は言う。


「ううん、暑くないよ。


私ちょっと寒がりなとこあるから」


「ふーん、そうか」


並び替えたシートを二つにまとめると、


雨宮君は私が持っていたシートをパッと手に取った。


「これ、オレが先生に渡しとくよ。


体育教官室に行けばいいんだろ?」


腰に巻いていた長袖ジャージを肩にかけ、


雨宮君は体育館の出口へすたすたと歩いていく。


「うん!手伝ってくれてありがとう!」


私は軽く頭を下げた。


「ああ、そうだ。あのさ、天野」


足を止め、雨宮君は後ろを振り向く。


「お前、彼氏いるの?」


「へ?」


彼氏?どうしていきなりそんなことを聞くのだろう。


「ううん、いないよ」


「へーえ、そうかあ」


一瞬雨宮君の顔がニヤッと笑った気がしたが、


いつもの澄ました顔で、


体育館の廊下へ出ていった。






手紙、

もう一通書かないと。