定休日の火曜。

まーくんは実家の美容室に来てくれた。

「いらっしゃいませ。」

笑顔でまーくんを迎える。


「え?髪切ってくれんの?」


「うん!」


まーくんに椅子に座ってもらい
支度を進める。

「どんな感じがいい?」


「じゃあ。お任せで。」

鏡越しにまーくんと話す。

髪を梳かしながら切っていく。


「まーくんは大学どこ行くか決めた?

頭良いから慶應とか早稲田とかかな?

まさか東大とか!?」


寂しいのがバレないように明るく聞く。


「…俺は。東京へは行かないよ。

こっちの大学に決めた。」


予想外の言葉に手が止まる。

と同時に安心して喜んでいる自分に気づいた。


「どうして?…私のため?」


鏡越しにまーくんを見つめる。


「ううん。自分の為。

あいとずっと一緒にいたいから。

せっかく俺のこと思い出してくれたのに。

もう手放したくない。

告白した時から決めてた。」


まーくんの優しさに涙が溢れる。

でも、今はまーくんの優しさに甘えてはいけない気がした。

『私のせいでまーくんが夢を諦めるなんて嫌だ。』

〝私が背中を押してあげなきゃ。〟

美咲の言葉を思い出す。

「私はまーくんに夢を諦めて欲しくない。」

意を決して放った言葉は涙で震えていた。

「諦めた訳じゃないよ。

こっちの大学でも勉強出来るし、

こっちにだって医療に関われる仕事はあるから。」


「でも、言ってたよね?

最先端の技術を学びたいって。

多くの人を助けたいって。」


鏡に映ったまーくんの笑顔が崩れた。


「卒業して遠く離れたら?

俺が東京で就職したら?

もしまた何かあったら俺は守ってやれない。


もう失いたくないんだよ!絶対に。

もうあんな思いなんか二度としたくない。

…離れたくない。」


「…でも!」



「俺の夢は!!」

まーくんの声が響く。


「俺の夢は…。

…ごめん。俺のことを想って言ってくれてんだよな。」


鏡に映る2人は泣いていた。


『こんなはずじゃなかったのに…。』


後ろからまーくんを抱きしめる。


「…言ったじゃん。

私は絶対にいなくならないって。

悲しませないって。

だからまーくんを悲しませなくない。」

まーくんが私の腕に触れる。

「じゃあ。約束してくれる?

遠距離になっても別れないって。

月一で髪切りに戻ってくるから。」

そう言ってまーくんは笑う。

「うん。約束する。」

鏡ごしに2人で笑い合う。