送らなくていいと言う田島くんに

せめて少しだけでもとねだる私に

お父さんが呆れて言う

「送ってやらせてくれないか。

こいつは昔から頑固だから。」

「そうでしたよね。

じゃあ少しだけ送ってもらいます。」

そう言って田島くんは家を出た。

田島くんを追いかけ家の扉を閉めると

すぐに田島くんの手を握る。

「あなたは誰?まーくんなの?」

「…ううん、違うよ。

まーくんはずっと昔に遠くへ行ったんだ。」

そう優しく笑う笑顔の裏の泣き顔が

今ならはっきりと分かる。

あなたはいくつもの涙を笑顔で隠してきたのだろうか?

「お願い教えて。昔のことを。

私が忘れちゃったこと全部。

知ってるんでしょ?」

田島くんがうつむく。

理由の分からないこの感情に

私は気付きかけている。

「ねぇ!まーくん!」

私は気づいたら叫んでいた。

ハッとした田島くんは

ゆっくりと話し始めた。

「俺と白石さ…。…あいと光輝と美咲は

幼稚園からの幼なじみだったんだ。

毎日4人で遊んでて

みんな、まーくん、あいちゃん、こうくん、

みっちゃんって呼び合ってた。」

微かに蘇る幼い頃の4人で遊んでいた記憶。

美咲の笑顔を思い出す。