いくつかのバスを乗り継ぎ、

気がつくと2人の手は離れてしまっていた。

あれからずっと田島くんは黙ったままで

何も話してくれない。

バスの窓を静かに見つめる田島くん。

私はあの時、気づいてしまった。

田島くんのことが好きってことを。

その時、ふと田島くんが呟く。

「俺の特別で大切な場所に

どうしても白石さんを連れて行きたい。

見せたいものがあるんだ。」

バスを降りると辺りはもう暗くなっていた。

どこか見覚えのある丘が目に入る。

ここが目的地らしい。

その時、記憶の隅で何かが騒ぐ。

「…怖い。」

心配そうに振り返る田島くんの姿が滲む。


次の瞬間、

プップー!!

トラックのクラクションが鳴り響く。

「きゃー!!」

得体の知れない恐怖が私を襲い、

その場にしゃがみ込む。

「大丈夫!?」

田島くんが駆け寄ってきて私を抱きしめる。

「ごめん。もういいよ。

大丈夫、大丈夫だから…」

そう言って田島くんはずっと私の頭を撫でてくれた。

その温もりに触れてようやく落ち着いた頃。

「悪かった。無理やり連れてきて。

もう帰ろう。」

田島くんの心配で悲しそうな顔を見つめる。

『田島くんのことをもっと知りたい。

特別で大切な場所を私も見てみたい。』


「もう大丈夫だから。

お願い。その場所に連れて行って。」

田島くんは心配そうで
今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「わかった。」

田島くんに手を引かれて丘に登ると

そこには満点の星空が

「うわぁー!!

きれーい!!」

思わず声を上げると。

「すごい綺麗だろ。

その星空をどうしても白石さんに見せたかった。」

はしゃぐ私に田島くんは安心したように
笑って言った。

丘に座ろうとすると

「待って!」

田島くんは自分の来ていたブレザーを脱ぎ

丘に敷いた。

「汚れるからここに座って」

そう言ってブレザーを指差す。

「ダメだよ。汚れちゃうよ。」

「いいから。」

しぶしぶブレザーの上に座る。

本当に田島くんはいつも優しい。

星空を眺め、ふと気がつくと

田島くんがじっと私を見つめている。

「どうしたの?」

「ううん。なんでもない。」

そう言う田島くんはどこか切なそうだった。

深く息を吸い込み、

田島くんは何かを覚悟したように

口を開いた。

「俺、白石さんのこと好きだよ。」

「ごめんなさい。

私には好きな人がいて…」

突然の田島くんの言葉に驚き、

とっさに今日、ずっと頭の中で練習していた

言葉が口に出てしまっていた。

「…だよな。やっぱ勝てないか。

初恋のまーくんには。」

そう言って田島くんは笑う。

「俺、実は東京の大学目指してるんだ。

だから高校の3年間で白石さんに

ちゃんと伝えないとって思ってたんだ。


でも、これからは友達として

見守っていくから。

ダメかな?」

突然の言葉に驚き、悲しくなる。

「ううん。ダメじゃない。

残りの高校生活よろしくね。」

今さら好きだとは言えない。

必死に寂しさを隠して笑った。

「大学で何を勉強するの?」

「医療機器を開発する人を目指してる。

俺は医者とかは向いてないから

医療機器で沢山の人を救いたい。

だから大学も最先端の技術を学べるところに

入りたいんだ。

白石さんは?」

田島くんの隠された夢を聞き驚く。

「私の夢は…

美容師になりたい。

美容師になって実家の美容室を継ぐの。

だから高校を卒業したら

お店を手伝いながら地元の専門学校に通うんだ。」

交わらない2つの夢に切なくなる。

高校を卒業したら田島くんとは離れ離れだ。

「じゃあ、月一で白石さんの美容室行くよ!

毎月、白石さんに髪切ってもらう。

東京で成長して、

いつか白石さんに振り向いてもらえるような

大人になる。

それで…」

「その続きは?」

田島くんとの未来に希望が膨らむ。

「その続きは…また今度話すよ。」

田島くんが時計を見る。

「やば!21:00のバスに乗らないと帰れなくなる!!」

2人で慌ててバスへ急ぐ。

田島くんとの話に夢中になり

時間を忘れてしまった。