放課後の誰もいない教室。

美咲は家の用事があるので先に帰ってしまった。

「痛っ!

うーん。なかなか上手くいかないな…。」

ぐちゃぐちゃになってしまった絆創膏を丸めながら呟く。

ドッチボールでボールを受け止めたときに

腕を擦りむいてしまった。

『どんだけ弱いんだ私…』

新しい絆創膏を取り出し傷口に貼ろうとするが

なかなか上手くいかない。

その時、ガラッと教室のドアが開く。

「なにしてんの?ちょっと見せてみて…。」

田島くんが教室に入ってきて

私が怪我したところを見る。

「痛そう。ちょっと来て。」

そう言って田島くんは私を水道に連れて行き

傷口を水で流す。

痛みを堪え、田島くんを見る。

この時間に制服姿は珍しい。

いつもは部活だから部活着なのに。

「ありがとう。

今日、部活は?

時間大丈夫?」

「ないよ。今日は休み。」

教室に戻ると田島くんは

鞄からテーピングやらなにやら色々なものを

取り出し、私の手当てをしてくれる。

「慣れてるんだね。」

「バスケ部だからね。」

やっぱり田島くんはいつも優しい。

「慎!いつまでサボってるんだよー!」

ガラッとドアを開けた岡田くんは

部活着にバスケットボールを持っていた。

私たちを見るなり

「ごめん!お邪魔しました!」

と駆けて行ったと思ったら
すぐに戻ってきて

「田島!この後、大事なミーティングだから
さっさと、…ゆっくり来いよ!」

そう言ってまた行ってしまった。

「部活サボったのバレちゃったな

よし!終わり!」

「部活だったのにありがとね。」

「気にしないでいいよ。
俺の方こそごめん。

俺のせいでこんな怪我させちゃって」

田島くんは言いにくそうに話し始める。

「もしかして俺の言ったこと気にしてる?

いじめられてる女子助けたり、

俺のこと守ったり。

すげーかっこよかったよ!白石さん。

…だけどもうこんな無茶はしないでほしい。

俺のことはいいから。

…俺が守るから。」

まっすぐ見つめる田島くんの目には涙が浮かんでいた。

初恋の人を守れなかった痛みと彼は今でも

戦っているようだった。

『私と初恋の人を重ね合わせているのかな?

田島くんを励ましたいな…。』

少しでも田島くんの心の傷が癒えればいいと

「私は大丈夫だよ!
絶対いなくなったりしないから。

私は田島くんの初恋の人みたいに
強くはないけれど、

田島くんを悲しませたりしないから」

田島くんの手を両手で包んで言った。


堪えられなくなり田島くんは席を立った。

背を向けているが泣いていることくらい分かる。

「はい!私を初恋の人だと思って泣いていいよ!」

両手を広げて笑顔で言った。

この場を和ませる精一杯の冗談だったんだけど‥。

田島くんが私に飛び込んでくる。

そのままギュッと抱きしめられた。

田島くんはまるで子供みたいに泣いていた。

田島くんは意外と甘えたがりで泣き虫だ。

落ち着いた頃。

「このことは絶対、誰にも言わないから」

「絶対だぞ!」

そう言う田島くんの顔にやっと笑顔が戻った。

「じゃあ、俺は部活行くから気をつけて帰れよ!


そう言って教室を出て行った。

田島くんが手当てしてくれたところに
右手で触れる。

答えの見つからない愛しさが込み上げてくる。