恋愛境界線

「失礼します」

扉を開けると、仕切りがあって中が殆ど見えないが狭くて埃っぽい。
右側には本棚があり、本がびっしり詰まっている。

私はおそるおそる足を踏み入れ、仕切りの奥を覗く。

あ。
誰か椅子に座って…寝てる?

仕切りの奥はデスクと背もたれのある黒い椅子が置いてあって、そこに座って男の人が小さな寝息を立てて寝ていた。

この人が、本郷先生?

前髪は眉より少し下くらいで、黒髪。
スーツのジャケットは机の上に置かれていて、ネクタイはピッチリと締めたまま寝ている。
確かに若いし、整った顔立ちをしていた。

ネクタイ、苦しそう。

私は無意識に先生のネクタイの方へ手を伸ばしていた。
そのタイミングで、先生の目がゆっくりと開いた。

「え…」

先生は私を見て、目を見開いた。
その真っ直ぐな目に私はドキッとする。
先生に見つめられたその一瞬、時間が止まったようなそんな気がした。

「あ…」

私は思わずびくっと身体を震わせた。
伸ばした手を引っ込めようとすると、その手を掴まれる。
気づけば私は抱き締められていた。