次の瞬間、
私はあたたかい体温に包まれていた。


気づけば私は、先生に抱き締められていた。




「先生…だめだって」


「ごめん。でも泣いてるから、ほっとけない」


「誰かに見られちゃうよ」


「誰も来ないよ」


先生のにおい。
ああ、こんなにおいだったな。

はじめて会った、社会科準備室で抱き締められたときのことを思い出す。



「兄貴じゃなくて、僕じゃだめ?」


先生が、私の耳元で囁く。
何で、いまそんなことを言うの。


「もう、先生のわがままは聞けないよ」


「あの頃は傷つけてばかりだった。
でもこれからは傷つけないって約束する」


「…信じられない」


「だよな。でも1年前も言ったことは嘘じゃない。僕は…“赤坂雪花”を好きだって」


「…離して」


そう言って私は、先生を勢いよく突き放す。