「それでも、いいんです。だから彼女にしていただけませんか」

「駄目だよ」

「お気持ちはわかります。
でももう、3年経ちました。
本郷先生も他のひとと恋愛をしてもいいと思うんです。幸せになってもいいと思うんです。
亡くなった婚約者もわかってくれると思うんです。」

「そうじゃない」

「でしたら、なぜ…」

「そうしたら、君が傷つく」

「え…」

「他の誰かを想ったままの僕と付き合っても、君が辛い思いをする。傷つくだけだ」

「……」

「だから、小川先生と付き合うつもりはありません。ごめんなさい」

そう言って、僕は再び小川先生に背を向けて歩き出す。



そうだ、これでいい。
いまの僕は、ひとりでいるほうが良い。
もう関わった相手の、傷ついている表情を見たくない……



「それでも、わたし、諦めませんから!」

そう叫ぶ小川先生の声を背中越しに聞きながら、振りかえることなく歩き続けた。