「やっぱり。そうなんですね」

そう言って、小川先生は少しうつ向いた。

「…そんなふうに、見えるか?」

「はい。本郷先生が思ってるより、顔に出てますよ」

「そう、か…」

人からよく、感情が顔に出ていてわかりやすいと言われる。
自分でもそう思う。

嬉しいときは何事も積極的にできるし、
辛いときは社会科準備室に入って殻に閉じこもる。
それは男として頼りないし、
人として感情の起伏が激しいのは、相手にとって面倒な人間だろう。

だから振られるんだよな。
…って、またこう言う考えに戻って堂々巡り。

あー
本当に情けない。



「3年前、婚約者が亡くなったんですよね」

「…ああ」

他の先生に聞いたのか。
まあ、全員が知ってることだけれど。

「忘れられないのは、当たり前ですよね」

もちろん、優姫のことは忘れられるわけがない。

今でも時々思い出す。
事故にあったと連絡があったときの、世界が崩れていくような感覚。
優姫の、表情もまるでない、人形のような死に顔。
世界が灰色にしか見えない、生きる意味を見出だせない日々。
もう戻りたくはない。

そこから抜け出せたのは、雪花と出会えたから。
そばにいた時間は短かったけれど、
その日々があったからこそ、いま何とか生きていけている。