それならそれで別に構わない。


一人の方が気持ち楽だし……。


そう自分に言い聞かせて息をつく。


エレベーターの扉を閉めるボタンを押そうとすると一人の男の人が走って入って来た。


驚いて目を丸くする。


「ふーっ!間に合った!!」


笑顔で私にそう言うと男の人は首を傾げてエレベーターのボタンを指さした。


「閉めないの?」


「え……あ……」


エレベーターの閉めるボタンを押すと扉が閉まってエレベーターが動き出す。


この箱の中に二人きり。


私はボタンの前から動けずに俯いて立っていた。


そんな私にいきなり後ろから抱き着いてくる男の人。


「ひっ!?」


「酷いなぁ、そんな声出して。彼氏に対して出す声じゃない」


耳元で甘く囁いてくる男の人……いや、私の『彼氏』。


「あ……の……っ」


「光希(みつき)見つけて、一刻も早く抱き着きたかったけど我慢した俺の事……褒めてくれないの?」


「鹿野(かの)くん……っ」


「『鹿野くん』じゃないでしょ?ちゃんと、『愛空(あいく)』って呼んでくれなきゃイタズラしちゃうけど、いいの?」


そう言って人の耳を甘噛みしてくる。


ここ……会社なのに……っ。


「会社……だし……」


「俺はバレてもいいんだけど。むしろ言いふらしたいくらい。『相原光希は俺の彼女なので、絶対に誰も手出ししないでくださーい』って」


「だ、ダメ……っ」


「どうして?」


「だって……っ。愛空は、カッコイイけど……私は違うから……」


「光希だって可愛いじゃん」


そういうのは愛空だけだ。


誰も私を可愛いだなんて思った事ないだろう。


真っ赤なまま俯いていると、エレベーターがピンポンといって止まった。


ボタンを押してない階に止まったと言う事は、誰か乗ってくるって事だ。


「あ……」


小さく声を出すと愛空は少し笑ってから……


「続きは仕事終わりに」


そう言って離れた。

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