こつこつと足音を響かせながらローズに近寄ってきた男は、いきなりローズの顎に指をかけて自分の方を向かせた。笑みのないその顔は、威圧的で恐怖すら感じる。

 ローズは驚いて声をあげそうになり、とっさに、ぎゅ、と唇をかみしめた。


「レオン・カーライルだ」

 焦げ茶の髪と同じ濃い色の瞳が、興味深そうに見下ろしている。

「青い瞳は、悪くない」

「……おそれいります」

「そのように警戒されたのでは、こちらも気づまりだ。来週の式まで、気楽にするがいい」

 そういうと、手をはずしてレオンは彼女に背を向けた。部屋を出て行くその背中が見えなくなってから、ようやくローズは詰めていた息を全部はいた。


(恨みますよ、お嬢様―!)

 ローズは、どこかの空の下にいるベアトリスに向かって心から叫んだ。


 事の起こりは、一週間ほど前にさかのぼる。




  ☆