(お嬢様、今頃どこで何をしているのかしら)

 もし本当に逃げ出すほどに結婚が嫌だったのなら、自分も一緒にこの結婚を破棄してもらうように伯爵に頼んでみよう。ベアトリスがどういうつもりで姿を隠したのかはわからないが、どんな理由でも、ローズはベアトリスの味方でいたいと思った。

 そんなことを思いながらハープをつま弾いていたローズの耳に、ふと、別の音が聞こえた。

(え?)

 ベアトリスのことを思い出していたせいか、ローズが弾いていたのは二人でよくあわせていた曲だ。そのベアトリスの思い出をたどるように、いつの間にかハープの音に、かすかなトラヴェルソの音が重なっている。

 一瞬ベアトリスかとも思ったが、どうもくせが違う。軽やかなベアトリスの音と違って、今ローズのハープに重なってくるのは、力強く張りのある音だ。息遣いも巧みで、一流の宮廷音楽師でもこれほどの音を出すのを聞いたことがない。