身代わり令嬢に終わらない口づけを

 ガラスのランプは貴重品だ。それをこれだけの数揃えられるのは、公爵家の裕福の表れでもある。貧乏性のローズは、これ一つでいくらだろうと、ついつい考えてしまった。

 ランプは思ったよりもずっと明るく、足元に不安はない。うっすらと暗闇にうきあがる花々は、見慣れた花とは思えないほど印象が違っていた。その花の一つ一つをもの珍し気に眺めながら、ローズは庭をそぞろ歩いていった。


 庭の端までたどり着いたローズは、そこにローズのいる離れとは別の小さな建物をみつけた。

「ここは?」

「こちらは、音楽堂でございます」

「音楽堂?」

「はい。サロンなのですが、楽師の演奏を聴きながら食事ができるようになっておりますので、そう呼んでおります」

「入ってみてもいいかしら?」

「よろしいですよ。中からは、ちょうど庭を見渡せるようになっております」