身代わり令嬢に終わらない口づけを

 ソフィーが声をかけると、中から静かに扉が開いた。開けてくれたのは、黒髪の青年だった。朝、ガゼボでお茶を飲んでいたレオンを待っていた青年だと、ローズは気づく。服装からして、レオンの執事だろう。


「どうぞ」

 柔らかい物腰のその青年は、わきにどいてローズを中へと誘った。

「どうした」

 机に向かったレオンは、何か書類を呼んでいるらしく顔も上げない。

 邪魔をしてしまっただろうか、とローズはひるんだが、相手が忙しいならちょうどいい。挨拶だけして帰ろうと、膝を折って礼をする。


「今朝のお菓子も嬉しかったのですが、部屋いっぱいの花に囲まれる経験も初めてです。お気遣いありがとうございます」

「そうか」

「レオン様のお気持ちは十分頂戴いたしましたので、今後はどうか過分なお気遣いをなさりませぬようお願い申し上げます。わたくしは、レオン様のご負担にはなりたくありません」

 レオンが、少しだけ驚いたような顔をあげた。