「……そういうお菓子ですから。歯ごたえを感じないほどに軽く焼くのには、パティシエの高い技術と長年の勘が必要です。こちらの厨房にはとても腕のよいコックがいるようですね」

「そうなのか」

 レオンが目を丸くした。はい、とローズは頷く。レオンはもう一つつまんで口に入れるが、一瞬でとけるその甘さに複雑な顔になる。


「食事など、腹に入れば同じかと思っていた。コックの腕など考えたこともない」

「では、機会があれば褒めて差し上げてください。私はとてもこれが気に入りました」

 それを聞いて、レオンが、ふ、と笑った。

「そうか」

 ふいに浮かべたその笑顔に、ローズはどきりと胸を鳴らす。


(怖い人かと思ってたけど、顔はいいのね)

 ベアトリスは顔のいい男性が好みなので、文句なくこの顔を気に入るだろう。

(お嬢様、みつかったかしら)

 ローズがぼんやりとしていると、カップのお茶を一気に飲み干してレオンが立ち上がった。