「怪我はなくて?」

 青年に向けていた敵意むき出しの態度ではなく、いきなり優しい表情になって振り向くと彼女はその女性に応えた。

「はい。ありがとうございました。でも、あなたが……」

「私はこれくらい平気。あの男は捕まえられなかったけど」

「とんでもありません。助けていただいただけで嬉しかったです」
メイドは、潤んだ目で熱く女性を見つめている。女性は、にっこりと笑って言った。

「今度ああいう手合いに会ったら、遠慮なくまたぐら蹴り上げてさしあげなさい。家はどちら? 送りましょうか?」

「いいえ、そこまでご迷惑はかけられません。それに、ご主人様のお屋敷はすぐ近くだから大丈夫です」

「そう。気をつけて帰ってね」

「はい。本当に、ありがとうございました」

 そうして彼女は、何度も何度も振り返りながら去っていった。


「で?」

 その姿が見えなくなると、その女性はくるりと振り返る。