「彼が好きになったのは、ベアトリスという名前の君だよ。頑固で融通のきかない彼が、あんなふうに血相変えて女性を追いかけるようになるなんて、思ってもいなかった」

 真面目で実直を悪い方に言い換えて、その青年は笑った。


「でも、あの方はお嬢様の夫となる方で……」

「そんなの、好きになるのに関係ある?」

「ありますよ! 私は……ただの、使用人です。私では、駄目です……」

 ぽたぽたと、ローズの目から涙が落ちる。

 レオンのことを考えるだけで、胸が苦しくなる。彼がいい人だと思えば思うほど、ベアトリスにお似合いだという気持ちの裏で、ローズの心は苦しくなるばかりだった。

 ようやく、ローズはその苦しさの理由に気づいた。