「あれは確かマトレ通りのあたりだったか……どうした」

「あ、いえ……」

 ローズはすとんと席に座った。


「わたくしと間違えるほどにそっくりな方もいらっしゃるものかと驚きまして……」

「間違えたりはしない」

 すると、存外真面目な声が返ってきた。

「たとえ似ていても、お前を誰かと間違えたりしない」

 真っ直ぐに見つめるレオンの視線を受け止められず、ローズはうつむいた。

 レオンは時折、穏やかな言葉の中にもこんな風に、なにがしかの激しさを含ませることがある。

 それはきっと、ベアトリスに近づこうとしてくれているレオンの気持ちの表れだ。それ自体は良いことだが、自分を偽っているローズはその激しさを受け止められない。