身代わり令嬢に終わらない口づけを

「そうですね。いつか知っておしまいになることなら、妙な噂をお耳に入れるよりは……」

「ありがとう」

 ソフィーは姿勢を正すと、口をひらいた。

「ハロルド様は、レオン様のお兄様でカーライル家の次期当主になられる方でした」

 その言葉が、過去形だという事にローズは気づいた。やはり、すでに亡くなっているのだろうか。


「奥様のご結婚相手も、実は最初に決まっていたのは、ハロルド様だったのです」

「え? レオン様ではなくて?」

「はい。半年前、リンドグレーン伯爵家のご令嬢とご結婚が決まったことを、ハロルド様もそれは喜んでおられました。けれど、そのハロルド様が、先月の末から行方不明になってしまわれたのです」

「ゆ、行方不明? 誘拐とかではなくて?」