「そんなどこの馬の骨ともわからない男、お嬢様がからかわれてるにすぎません」

「彼は誠実よ。決して不埒な真似もしてこないし、私をちゃんと一人の女性として丁寧に相手をしてくれるわ。とても私の事を大事にしてくれているの。今日だってすぐそこまで……」

 言いかけて、ベアトリスは、は、と口をつぐむ。それをローズは聞き逃さなかった。


「そこまで? まさか、お嬢様、ご自分がリンドグレーン伯爵令嬢だとその男に知られて?」

 沈黙こそが回答だった。

「お嬢様!」

 無言を貫くベアトリスの目の前に回ったローズが、その明るい青の瞳を覗き込む。