伯爵令嬢のおつきなんて、と最初は恐縮していたローズだが、しとやかで物静かなご令嬢と思っていたベアトリスがとんでもないお転婆娘だという事を知るのはすぐだった。

 ベアトリスは自分そっくりのローズを、館を抜け出している間の身代わりに使うために侍女に召し抱えたのだ。


 幸か不幸か、もう身代わりをつとめ始めて一年になるが、今のところバレてローズが怒られたことはない。もともとベアトリスは、対外的には深層の令嬢として人と会う時にも扇で顔を覆い口を開くことも少なかった。背丈も顔つきもそっくりのローズを疑うものはない。

 それをいいことにベアトリスは、ここのところ二日と開けず館を抜け出していた。


「それで? 今日はどちらにいらしていたのですか?」

「だから……お茶をしに……」

 めずらしく口ごもったベアトリスに、ローズはピンとくる。

「……例の、商人のお坊ちゃまですか?」

 ベアトリスは、ふいと顔をそらして答えない。ローズは深くため息をついた。