第5章 着替え

幸運な事に、うちの学校の体育は、教室じゃなくて更衣室で着替える。

前後の席で着替えなんてしようものなら、正気を保てる自信がないって断言出来る。

こんなことで自信満々なのもどうかと思うけど。

佐原さんが来る前に、さっさと行って済ませてしまおう。

「奏ー、更衣室行こう!」

声をかけて来たのは親友のマキ。

教室の移動とか、お昼は大体2人で行動する事が多い。

「はいよー」

体操着の入ったバッグを持って、マキの元に向かう。

「ちょっと、さっきの決着ついてないよ。逃げる気?」

マキの前に座っていた、ちっこい子がキャンキャン吠えだした。
えーっと、確か、一ノ瀬さん。そうそう、一ノ瀬明日香さんだ。佐原さんと、三崎さんと3人でいる事が多い。

「そっちの負けでしょ。私に勝とうなんて、お子ちゃまには無理なのよ」

一ノ瀬さんの頭をポンポンして、教室から出て行く。

マキを追いかけながら、何事か聞いてみた。

「おチビちゃんが、対戦モードのゲームを挑んできてさ。連戦連敗で拗ねてるのよ」

「教卓ど真ん前の席で、あんたら何やってんの?」

「大丈夫、社会の田島は生徒の動向気にしないから。きちんとタイミングは測ってるよ」

そんな所で「きちんと」してても意味ないと思うけど。

更衣室に着くと、佐原さんの姿はなかった。
今のうちに早く着替えちゃおう。
奥の方のロッカーに荷物を置いて、着替え始める。

丁度ブラウスを脱ぎ終わった時、横からヌッと手が伸びて腹部を撫でられた。

ひっ、一体何なの?

顔を向けると、ニンマリと笑う未玖がいた。

「奏、腹筋割れてるー。すごいねえ」

さらに手を伸ばして、スリスリと上下に撫でられる。
自慢の腹筋ではあるけど、他人に触られるのは抵抗がある。

「ちょっと、触らないで」

抵抗むなしく、未玖はウェスト辺りにも手を滑らせる。

「無駄な脂肪とかなくて羨ましいー」

と、そこにマキが声をかける。
「おい、長谷川。それぐらいで止めてやれ。奏が硬直してる」

「はいはーい」

未玖は、降参とばかりに両手を上げて解放してくれた。

ハア、助かった。

急いで体操服に着替え終え、出口に向かうと、こっちを向いていた佐原さんと、思い切り目が合ってしまった。

ブラウスのボタンは全部外され、羽織っただけの中途半端な状態で、爽やかなミントグリーンのブラジャーに覆われた谷間が、チラリと見え隠れしている。

あまりの刺激的な姿態に、思わずゴクリと唾を飲んでしまう。

「ほら、奏。行くぞ」

ポンっとマキに肩を叩かれて、我に帰る。
やばい、これ漫画だったら、絶対に鼻血吹いて倒れてる。

心臓バクバクいってるよ。
早くここを出なきゃ。

なんとか理性を総動員させて、体育館に向かった。