第3章 ついて、なかった

席替えしてからまだ3日、されど3日。

最初はラッキーと思ったこの席順だけど、距離が近過ぎて、色々とパンク状態で、このままだと死ぬかもしれない。

彼女の真後ろって事は、当然前に目を向けるだけで、視界の半分くらいが彼女になる。

これまで前の人なんて気になりもしなかったのに、今は視線を彼女に固定しないようにするだけで精一杯だ。

プリントが回ってくる度に、くるりと振り向く姿にドキッとさせられる。

ふわっと揺れる髪、優しげな瞳、笑みをたたえた口元。

プリントを持つ手が、紙の真ん中ぐらいにあって、指が触れてしまわない位置を咄嗟に探す。

ずっと見ていたい欲望を振り切るように、後ろの席に身体ごと向けてプリントを回す。

「ありがと、奏」

そう声をかけるのは、去年一緒のクラスだった長谷川未玖。
メイクばっちりのギャルっぽい子で、スキンシップが激しい。

「なんか、ちょっと日に焼けたんじゃない?」

そうやって、スルリと手に触れてくる。

「結構走らされるし、最近晴天続きだから」

「夏が始まったら、去年みたいにもっと焼けてますますカッコ良くなっちゃうね」

ばちっと音がしそうな程、見事なウィンクを決めながら上目遣いで見てくる。

「そんなことない」

会話を終わらせようと、体を前に戻す。
すると、佐原さんと正面から向き合う格好になってしまった。

え、なんでこっち向いてんの?

佐原さんは慌てた様子で、くるりと前を向いたことで、またふわりと髪がたなびき甘い香りが鼻をくすぐる。

何となく気恥ずかしくなって、下を向いてしまう。

こんな事続いたら、心臓もたない。

ついてなかった、かも。