田舎道を2人で歩く。
バスに乗ったばかりの頃 あれだけ騒いでいたとは思えないほど、お互いほとんど喋らなかった。
「こっち?」
「はい。」
行き先を知らない先輩は、時々 道を確認しながら あたしの手を引いて歩く。
本当はあたしが前を歩けばいいのだけれど、足取りは少し重いままで。
きっと、先輩はそのことをわかっていたのだと思う。
「…ここです。」
「病院?」
病院の前で足を止めたあたしに気付いて、先輩も立ち止まる。
「はい。…叔母さんに、これを届けに来たんです。」
バスの中でも、ここまで歩く道中でも、話していなかった『今日の目的』を告げた。
「叔母さん、入院してて…。
本当はお母さんが届けるはずだったの、行けなくなったから。」
「…そっか。」
敬子叔母さんとの関係については言わなかったけど。
先輩は、薄々勘付いているだろう。
…敬子叔母さんは、苦手。
お父さんが亡くなってから、親戚の人が話してるのを聞いたことがある。
敬子叔母さんは、あたしのお父さんが好きだったんだって。
―でも、お父さんはお母さんを選んだ。
プライドの高かった敬子叔母さんは、悲しみより怒りが強くて。
でも、小さい頃から仲の良かった姉(つまり うちのお母さん)のことは、怨めなかった。
だから、お父さんのことも、お父さんに似たあたしのことも、嫌いなんだって。
…だけど、あたし知ってるよ。
お父さんが亡くなったとき、庭で静かに泣いてた敬子叔母さんを。
――ほんとは、悪い人じゃないんだ。

