「次で降ります…。」
「了解。」
病院が近づいてくるにつれて、表情が曇っていくのが自分でもわかる。
先輩が横にいるから、かろうじて自制を保っていられるけど、もし1人だったら逃げ出していたかもしれない。
「…梢?」
「なんですか?」
「あとで、ケーキでもおごってやるよ。」
「え?」
「だから、がんばれ。」
ポンポンとあたしの頭を撫でて、にかっと笑う。
まだ何も言ってないけど、先輩はあたしの表情から何かを察したらしい。
「…何しに行くのか知らないけど、俺がついてんだから。」
「はい…。」
…大丈夫。
先輩がいれば、こわくない。
「…じゃ、行きますか。」
徐々に速度を落としたバスは、ゆっくりと停止。
あたしの紙袋を片手で持った先輩は すっと立ち上がり、もう片方の手を後ろに差し出した。
一瞬ためらったけれど、そっと自分の手を重ねる。
初めて触れた先輩の手は、少し冷たくて。
安心というより、ドキドキの方が大きかった。

