「及川、」

「…はい。」

「約束は約束だからな。」


無情にも、小野チャンはあたしに告げた。


「小野せんせぇ―…」

「…お前に『先生』とか言われたの初めてだな。」


必死のお願いをしてる時に「小野チャン」とは言わないよ、さすがに。

『小野チャン』こと、小野悠平(オノユウヘイ)は今年ウチに来た先生で、まだ26歳。
その親しみやすさから、大半の生徒は『小野チャン』と呼ぶ。
基本的にはいい先生なんだけど、ちょっと(?)Sなところが…ね。


「まぁ、昨日までの4日間は頑張ってたと思うし、今日もアクシデントがなければ間に合ってたかもしれない。
でも、おまえが今日遅刻したのは事実だ。」


-そう。
校門を目前にして、あたしは「誰か」とぶつかった。
自転車に乗ったその人は、頭をうって倒れたあたしを保健室まで運んでくれた「らしい」

保健医曰く、「気がついたら消えていた」という、その彼について分かることは
すっきりとした香水の香り、ただそれだけ。


「で、約束は?」

「……課題プリント15枚と、文化祭実行委員長の手伝い。」

「はい。よくできました。」








嫌味としか思えないほど にっこりと笑った小野チャンの顔、あたしはきっと忘れない。