「…まぁ、及川だしな。起きてるだけマシか。」


小野チャンの失礼な発言に、クラスメートの笑い声は大きくなる。

あぁ…確かに。とか思っちゃうあたり、あたしダメだな。
実際寝てることのほうが多いけど、ここは反論すべきだった気がする。


「じゃあ、及川。問8やってみろ。…少しは眠気も覚めるだろ。」


…え?


ぶっちゃけ、授業を聞いてなかったから、今何ページなのかもわからない。
咲に助けを求めようとパッと隣に目をやると、


「153ページ。」


聞こえた声は、咲のものではない声。
-…昨日、隣から聞こえていた声。


『せんせぇー…』
『やっぱり来たか。』
『いや、これでもがんばったんだよ。』


職員室は静かすぎてやりにくいから、と自習室に移動し、外が真っ暗になるまで一緒に過ごしたあの時間。
隣であたしに解説する小野チャンの声は、今も耳に残ってる。


小野チャンは、小野チャンでしかない。
-そう何度も言い聞かせたけど、

プリントに図を描くその指先も、
低く甘い声も、
煙草と香水の混じった匂いも、

なんだか、あたしをおかしくしたんだ…