「おまえ、前見て歩けよ。あぶねーだろ。」

「…ごめんなさい。」

「まぁ、及川がこけようが何しようが、俺には関係ないけど。」


…ちょっとひどくないですか、センセイ。

一瞬、「あ、心配してくれたんだ」とか思ったあたし、バカみたいじゃん。


「そういえば、今日プリントまだだな。できてんの?」

「でき…てない。」


小野チャンが口を開く前に、と慌てて付け足す。


「いや、でもっ、手伝い終わってからちゃんとやるから!!
今日、これ生徒会室持って行ったらもう帰っていいって松谷先輩言ってたし。」


そこまで言い終わると、小野チャンは「そうか。」とだけ言った。




沈黙がつらかったあたしは、笑顔をつくって明るく喋る。


「…じゃあ、あたし行くね!」


早くおつかい終わらせてプリントやらなきゃ、と付け加えて、小野チャンの横を通り過ぎる、
その、瞬間―…


「…どうしてもわからなければ、教えてやるから俺んトコ来い。」


ぶっきらぼうな声が聞こえて振り返ったけど、小野チャンは既に歩き始めていた。

…なんでかな、小野チャンは小野チャンなのに。
そもそも、「教師が生徒に教える」っていう、当たり前のことを言われただけなのに。




頬がゆるんでしまうあたしがいたんだ-…。