キャロルの足元に腹を抱えて蹲る男性がいた。

ルシウスである。

「…すいません陛下。
つい反射的に。」

「反射的にニーバット噛ますってどんな反射…。」

ルシウスは鳩尾を撫でながら呻いた。

吐かなかった自分を褒めたい。

「…キャロル、ちょっとそこに正座して。」

「はい…。」

キャロルは諦めたようにラグマットの上に正座する。

ルシウスはようやく落ち着いた痛みを堪え体を持ち上げる。

「えっとねキャロル。
王妃としての公務に関しては本当に素晴らしいと思ってるよ。
そこに不満はないとは言わないけど不満はない。」

「不満あるんじゃないですか。」

「手腕に関してはないよ。
ただ毎回私に言わずレオンと2人で行く所がダメなんだ。
私は2人が何もないと分かってるけど世間はそうじゃないからね。
王妃と宰相が不貞行為をしていると判断されてもおかしくない。
そこは分かるでしょ?」

キャロルはふむと顎に手を当てる。

確かにレオンは既に既婚者だ。

義妹であるアンジェリカが許してくれているとはいえあまり連れ回すのも良くないかもしれない。

「…そうですね。」

「分かってくれる?」

「はい。
これからは1人で行って来ます。」

「違うから。
馬鹿なの?
本当に頭の中藁でも詰まってるの?」

「罵倒レベルが上がりましたね陛下。」

「ハッキリ言わないとキャロルは分からないって何年もかけて学んだからね私も。
まず何回も言ってるけど何で私に言わないんだい?
視察ならまず私に言えば良いでしょう?」

キャロルは唸る。

言わない理由ならあるのだ。

ルシウスは執務がある為キャロルが思い付いて視察に行こうにも時間がかかる。

身軽さが足りないのだ。

仮に行ったとしても王宮に国王がいないとなると王宮内の執務が滞ってしまう。

長々と視察に連れ出すわけにいくまい。

だから自分だけで行くと言えばこいつは必ず止めにかかるだろう。

だから言わないのだ。

だがそう返した所でこいつが納得しないだろう。

平行線になるのが目に見えている。

唸るキャロルを見てルシウスは溜息を吐いた。

「…何となく理由は分かってるけどね。
長々と視察に出ちゃいけない理由が他にもあるって分かってるかい?」

「…さあ?」

「王妃にはもう1つ大事な仕事があるからだよ。
後継を産むって仕事がね。」