マリアヌ国に吹雪が舞い街を白く染め上げた冬のある日。

こんな日は外に出る事も出来ないとキャロルは塔で『おこた』に潜りながら読書をしていた。

そんな塔の中に冷たい風が吹き込んで来た。

キャロルが顔を上げるとルシウスが頭に付いた雪を払いながら扉から入って来ている。

「あっご機嫌よう陛下。
雪塗れですね。
雪遊びでもしてきたんですか?」

「やあキャロル。
ただ単に王宮からここに来るまでに降られただけだよ。」

ルシウスが苦笑いしながら答える。

雪を払い終わるとルシウスも『おこた』に潜り込んだ。

「今日の執務も粗方終わったし『おこた』でお昼寝でもさせて貰おうかと思ってね。」

「魔道具開発者の方が『おこた』で寝たら風邪引くから絶対ダメって言ってましたよ。」

「そうなの?
それは残念だね。
…じゃあ私も読書でもしようかな。」

ルシウスは『おこた』に積まれた書物の山から適当に一冊手に取り開いた。

ページを捲る度ルシウスの白金色の髪がサラサラと動き長い睫毛に縁取られた藍色の瞳が文字を追う。

骨張った細長い指がティーカップの持ち手に触れゆっくりと紅茶に口を付けた。

キャロルはチラリとその様子を眺める。

紅茶を飲みながら本を読んでいるだけなのにこの絵になる具合は一体何なんだろうと。

この前他国から来た絵師がルシウスを描かせて欲しいと土下座しながら頼み込み、結局自分の力量ではこの美しさを表現しきれないと、筆を折って帰って行ったのも無理のない事かもしれない。

昔は天使だと持て囃されていた美貌は今や神が降臨されたと言われている。

ランクアップである。

中身は魔王なのに神とはつくづく世間の目とは分からない物だ。

キャロルがそんな事を考えながらジロジロとルシウスを眺めていると視線を感じたのかルシウスが顔を上げる。

「…ん?
なんだいその顔。」

「お気になさらず。」

「そんなゴミが溜まった汚部屋を見る様な目で見られてたら気にするでしょ。」

「そんな目してませんよ。」

「してるんだよ。
無意識って怖い上にタチが悪いよね。」

ルシウスに苦笑気味に言われキャロルは首を傾げる。

そんな目を自分はしていただろうか。

全く持って身に覚えがない。

「まぁいいけどね。
それよりキャロル、珍しい本を読んでいるんだね。」

「…あぁこれですか。」

キャロルは手にしていた本の表紙を表に向ける。

『イチャラブ学園は今日も事件がいっぱい!〜イケメン達の逆ハーレムに主人公は今日もタジタジです♡〜』というキャロルが全く読みそうにないタイトルがそこにはあった。

「彩花嬢に『キャロルさんの恋愛力は0!!寧ろマイナス点!!幼稚園児の方がまだましなレベル!!少しは恋愛小説でも読んで勉強しなきゃダメだよ!!』って言って押し付けられたんですよ。」

「あぁ、なるほどね。」

ルシウスが口に手を当てながらくすくすと笑う。