「ねえ、もう9月だよ?なんでこんなくそ暑いの?」
待ち合わせした駅前に、時間ぴったりに現れたそらくんは、汗が光る顔をパタパタと手で仰ぎながら、開口一番全力でそう訴えた。
どうやら走ってきたらしい。
2人共、夕方までのバイトを終えて、これから夕飯を食べに行くところ。
今日は、そらくん行きつけのラーメン屋に、連れて行ってくれるそうだ。
ラーメン屋でデートなんて、全然ロマンチックじゃないけど。
そらくんが隣にいれば、それでいい。
──私達はお互い、何もかもを忘れていた。
そらくんも私と同じように、あの8日間の不思議な夜のことは、全て忘れていたそうだ。
誰かと何か大切な約束をした、その記憶だけが残っていたらしい。
でも、どうしても思い出せなかった、とそらくんは言った。
あの8日間の出来事や、記憶が飛んだことについて、そらくんと何度も話したけど、やっぱり答えなんてわかるはずもない。
さっぱりわからないけど、現実に起きてしまったのだから、もう受け入れるしかない。



