私は視えない。僕は話せない。

 泣かないで。
 君には、明るい顔が似合っている。

 誰かは分からないのに、意識ははっきりとしないのに、どうしてそう思えるのだろう。
 自分で自分が分からない身で、どうしてそう思ってしまうのだろう。

 ふと、左手の平に誰かの指の感触。
 すべすべて冷たくて、小さくて、細くて――それでいて力強い指先が、僕の手の平を這っていく。
 ゆっくり、ゆっくりと、何か文字を刻んでいる。

 あぁ。そうか。
 彼女か。

――おはようございます――
 
 それなら、目覚めないとな。
 何をすればいいのか定まったのなら、それに従って起きないとな。

 相変わらず意識はふわふわと漂っているけど、別に無理に動く必要はない。
 どこからともなく広がって来る光を、ただ待っていれば良いだけだ。

 君が無事で、本当に良かった。
 ただ、生きてくれていて良かった。
 元気で居てくれているなら、僕はそれに応えるだけだ。

『おはよう。ちょうしは――』

 どちらでもない。
 特別陽気な訳でも、下がっている訳でもない。
 
 なら、別にどちらでも良いか。
 今の君に相応しい言葉で以って、僕はこのどっちつかずな感覚を表現しよう。

『いいよ』

 そう書いた瞬間、僕の手を握る彼女の手が、痛い程に力を強めた。